ギャラリーコンサートの様子
第94回春陽展ギャラリーコンサート
チャリティーイベントの一環としてのギャラリーコンサートは今年で5回目を迎えた。
第90回記念春陽展は身体表現と音楽と絵画が融合した空間が出現、91回展はヴァイオリン、92回展ではマリンバ、93回展では箏と尺八、とそれぞれの音が絵画空間と交じり合った。
第94回春陽展では大島莉紗氏のコンサートが実現した。大島氏は、春陽会会員の大島由美子氏のお嬢様で、パリ・オペラ座を拠点に世界的に活躍するヴァイオリニストである。今回ご多忙な中、春陽展に合わせて帰国するスケジュールを取って頂いた。
会期後半の日曜日の午後、会場に用意された70席はすぐに埋まり、立ち見を入れると100名を優に超える聴衆で溢れた。
『モーツァルト 歌劇「魔笛」より』 は、第2ヴァイオリンとして賛助出演頂いた竹田華奈氏と共に、歌とオーケストラの掛け合いの一場面が演奏され、有名なソプラノのアリアがヴァイオリンによってまるで声のように歌われた。
『バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より シャコンヌ』
この曲は演奏時間約15分に及ぶ大曲であり、バッハの、そして無伴奏ヴァイオリン曲の中でも最高傑作の一つとされる。シャコンヌとは元はスペインに起源をもつ古い舞曲で、冒頭の短いテーマを繰り返しながら幾重にも変奏を築きあげていく一種の変奏曲である。ヴァイオリンの重音は体の奥深くに染み入るようで、鳥肌が立った。まるで地底から轟くような低音、そして天井から降り注ぐような高音は、一つの楽器から奏でられたものとは到底思えない程の多彩な音色であった。
『モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」より』では、再度竹田氏の第2ヴァイオリンが加わりオペラの一場面を綴る構成で、会場の雰囲気を一変させた。
「パリ・オペラ座ではシャガールの天井画の下で演奏しており、またオペラやバレエの舞台美術と音楽が融合する空間でいつも仕事をしているので、この会場での演奏に違和感はない」という大島氏のコメントが印象的であった。
音楽家の風格と気品に満ちた演奏は、まだこの空間にいたい、この音に包まれていたい、と思わせる余韻を残しながらの終演となった。
(春陽会理事長 西野雅子)